「ブドウをいじめる」と美味しくなる? ―― 厳しい大地と生命の物語
ワインの生産者たちは、時折少し意地悪な言い方をすることがあります。
「上質なワインを造りたければ、ブドウの木を徹底的にいじめなさい」と。
水も栄養もたっぷりと与えられた恵まれた土地でぬくぬくと育ったブドウは、実を大きく実らせますが、その味わいはどこか大味で、深みに欠けてしまうことがあります。
一方で、水が乏しく、ゴツゴツとした石ころだらけの「貧しい大地」に植えられたブドウは、信じられないほどの奇跡を起こします。
今夜は、試練のなかで生み出される、ブドウたちの秘められた情熱のお話です。
地下10メートルまで伸びる「生命の探求」

水分が簡単に手に入らない痩せた土地に植えられたブドウの木は、生き延びるために必死になります。 雨を待つのではなく、自らの根を土の奥深くへと伸ばし始めるのです。
1メートル、3メートル、時には地下10メートル以上の深さまで――。 暗闇のなか、固い岩盤の隙間をぬって伸びた根は、地表近くにはない「太古のミネラル」や「様々な土壌の層」に巡り合います。
そうして根の先端から吸い上げられた大地の雫(しずく)が、あのワイン独特の「複雑で奥行きのある味わい」や「心地よいミネラル感」となって、小さな一粒の実へと凝縮されていきます。
過酷な環境だからこそ、ブドウは自分の力で大地の奥底にある宝物を見つけ出すのです。
子孫を残すための、美しき「生存戦略」

もう一つ、ブドウには面白い習性があります。
水と栄養が十分に満ち足りていると、ブドウの木は「今は平和だから、自分の枝や葉っぱを大きく伸ばすことに力を使おう」と考えます。その結果、果実の風味は薄まってしまいます。
しかし、乾燥や栄養不足という「危機」に瀕すると、ブドウの木はスイッチを切り替えます。 「このままでは自分が枯れてしまうかもしれない。せめて子孫(種子)だけは残さなければ」と。
危機感を持った木は、すべてのエネルギーを葉や枝ではなく「実を甘く、芳醇に熟させること」だけに集中させます。鳥たちに実を食べてもらい、遠くへ種を運んでもらうためです。
あの濃密な香りや豊かなエキス分は、ブドウが命がけで子孫を残そうとした「生命の結晶」そのものなのです。
グラスの中に宿る「大地の記憶」

ソムリエたちがワインを飲んだとき、「力強い」「骨格がある」「大地の香りがする」と表現することがあります。
それは、ただの例え話ではありません。 風雨に耐え、水を探して地中深くへ旅をしたブドウの樹が、その命の軌跡を液体としてボトルの中に残しているからです。
次にワインを味わうときは、そのブドウがどんな過酷な大地と闘い、どんな深さまで根を伸ばしたのか、そっと想像を巡らせてみてください。
ただ甘いだけではない、少し苦くて深みのあるその味わいに、きっと愛おしさを感じるはずです。
この物語の余韻とともに
厳しい自然とブドウの闘いに想いを馳せたあとは、その生命力が生み出した一杯を、お手元で試してみませんか。
痩せた石造りの畑で育ち、見事なミネラルを蓄えたワインや、グラスに注いだ香りをじっくり育むためのアイテムを、Wine & Whisper セレクトショップにそっとご用意しています。